
2011/06/17(金)
心に残る症例
鍼灸学科 川本正純
1978年の夏と記憶しています。この年、私の父が不安定な物を踏み台にして棚の品物を取ろうとして足を滑らせ、左足の小指を痛めました。このとき私は、鍼灸専門学校の2年生、授業で皮内鍼(ひないしん)[写真]の施術方法を習って約4ヵ月の頃でした。
左小指を押さえながら苦悶の表情を浮かべてうずくまっていた父に行った処置が私にとって忘れられない記憶として今も脳裏に残っています。
まず、反対側の右小指(左小指の痛所と対称の部位)に瀉法鍼(しゃほうしん;左小指の痛みと同量の刺激を鍼で与えること)を行ったのです。最初の瀉法鍼による刺激では少しも鍼の痛みを感じておらず、専ら左小指の痛みを訴えていました。引き続き4~5回瀉法鍼での刺激を終えた時、初めて父の口から右小指の瀉法鍼の部位が『痛い!』と声が出ました。同時に左小指の痛みは軽減し、『楽になったわ』という言葉を聞くことができました。そして左小指の痛みの最も強い所に皮内鍼を刺入し絆創膏で固定しました。父は、この処置の後、何も無かったかのように3~4日過ごし、5日目の入浴後に皮内鍼が外れた時から左小指がうずき始めたため近隣の整形外科医を受診し、左足小指捻転骨折と診断されました。
私が、皮内鍼と瀉法鍼を使用して初めて痛みのコントロールができた事例で、専門学校で教わったホヤホヤの知識と技術でもこんなに痛みのコントロールができるのだと、自分の選び進んだ道に確信と未来の希望を大きく持った症例でした。
![]()
![]()
左の写真は、長さ5㎜程度の皮内鍼をピンセットで皮膚をすくうように約2㎜
刺入しているところです。右の写真は刺入した皮内鍼を絆創膏ではさむように
固定しているところです。こうすることで数日、鍼を留めておくことができます。

