
2011/07/22(金)
心に残る症例
長いこと鍼灸師をやっているからといって「心に残る症例(患者さん)」がやって来る訳じゃない。待ってるだけで「幸せに」なれないのと一緒だ。幸せって何だろうと考えると、実は幸せを既に手にしてることに気づくことがある。心に残る患者さんて何だろうと考えてみると、実はありふれた患者さんが心に焼き付き、心に残っているのに気づく。そんな体験を披露しよう。
怒りっぽくてイライラを辺りに振りまいているのはヤな患者だ。その上、偉そうにしているとなお更だ。「なーんで、オレがこんな奴を治療せんとアカンのや」って思う日も結構あった。あの日までは。
ヤな奴にも、トリガーポイントに打つ鍼はよく効く。10本くらい打っただけでも痛みが随分軽くなる人もいて、そのとたん態度が変り、フツーのおじさんになる人や、治療直後、エーッ同じ人と思うくらい態度やものの言い方が変わる人もいた。(でもさー、紳士的な態度がとれるなら、最初から紳士でいて欲しいよね)
あの日、ある患者さんから、ガンで亡くなったお父さんの話を聞いた。病気になる前は「こんなに素敵な父親はいない」とまで思っていた父が、ガン末期には痛みと絶望のためか、ことある毎に、看病している家族に怒りをぶつけ、怒鳴り、口汚く罵るようになった。最愛のお孫さんには直接そんな態度を取らなかったけど、ヒトが変わってしまった彼にはお孫さんは決して近づかなかったと云う。妻や実の子でさえ病人をいたわる気持ちが萎え、「早く死んで欲しい」という気持ちさえ芽生える。そして、最愛の孫も近寄りもしない人生の最後!
この話を聞いて、あのヤな患者達の事を急に思い出した。そういや「2年も痛みが取れんかった」って言っていたナ、ムリして仕事しているんで寝ないと身体がもたへんのに「疼いて眠れん夜がしょっちゅうあった」って言うとったナ。痛いだけでも辛いのに、この痛みが一生続くかもしれんと思とったらヤケクソにもなるわな。心も腐ってまうわ。でも、反対に痛みがとれたら、心も元気を取り戻すさかい、いい人に変わるんや。いやいや変わるんやのうて、もともといい人が痛みと絶望で「イヤーな性格」に変わってしもたんや。ン・・・!ひょっとしてビョウキのせいで「ヤな性格」になったのを「ヤな奴」って思ってしまったのかも?
そう考えた時、痛みが取れ「有り難うございました」って言ってもらったヤな患者さん達の言葉と表情が突然フラッシュ・バックして、そして気付いた。「すみません。治療師としてそんなことも判ってないオイラこそヤな奴でした」
その日、生涯「痛みをとる為に、治療し、研究する」強い心が芽生えた。これからもずっと衰えることは無いだろう。
もし君がここに来て、一緒に患者さんを診る日が来たら、鍼の凄さだけでなく「心に残る症例」「鍼灸師としての幸せ」を見出せるために、援助を惜しまないつもりだ。

